
今回は映画『1917』のレビューをしていきたいと思います。
アカデミー賞3部門を受賞した注目の映画なわけですが、全編ワンカット映像によるほんの一瞬すら予測すらできない緊張感、常に主人公のそばにいるかのような臨場感、が謳われています。
というわけで、この『1917』の感想を語っていきます。もっと面白くなるポイントも。
結論から言うと、ものすごい濃い映画でした。全編ワンカット×戦争 が見事にハマったな、という感じです。
時代背景
映画の舞台となっているのは題名にもなっている1917年4月のヨーロッパ西部戦線です。イギリス軍の話ですね。
当時は第一次世界大戦真っただ中で、イギリス、フランス、などの連合国とドイツを中心とする同盟国が戦っていました。
そんな中、鉄条網を柵に巻き付けて、敵がそれを超えようとする間に機関銃でなぎ倒す、というチート戦術が開発されたんですねー。
まあ、両軍とも銃剣もってみんなで突撃したら、えげつない被害が出たので機関銃の攻撃を避けるために、地面を掘りました。それが塹壕です。
最初は一時的に敵の銃撃を避ける穴だったのが、つながって長い溝になり、それが何列も作られて、さらにそれをつなぐ塹壕も掘られたりしました。
で、攻撃よりも防御が強くなりすぎてお互いに完全に膠着状態になりました。
数キロ前進するのに両軍数十万人が戦死するなんてザラだったんですね。
アメリカが連合国側で参戦したのが1917年で、連合国側の大規模な反攻が始まるのが1918年なので、映画で描かれている1917年4月は一番精神的にキツい時期だったと思います。
ワンカット映像が圧巻
僕がちょっと誤解していたことなのですがこの映画の大きな特徴として、ワンシーンワンカットがあります。
しかし、もちろん映画の全ての時間を一発撮りしたわけではありません。
「全編ワンカット映像っていうことは2時間カメラを回し続けていたのか!?」
とか僕は思ってたんですよね。
しかし、調べてみると「全編を通してワンカットに見える映像」なんですねー。 まあ、少し考えればわかることなんですがね。
「じゃあ、どういう事?」と思うかもしれませんが、簡単に説明すると、少し長めのカットを観客が気づかない程"巧く"つなげている感じです。
映画を見ながらシーンの切れ目を探してたんですが、意識していても気づきにくかったです。
例えば、地下に入っていく瞬間に画面全体が真っ黒になる、とか。
爆発の瞬間に画面が真っ白になるとか。そこらへんで切り替えてたのかなー。
本当に戦場カメラマンみたいにずっと主人公の近くにいる感じです。
ワンカット映像ということは、視点を瞬間的に移動させることができないわけです。
普通の映画なら、視点を切り替えることでより迫力を感じさせたりするんですが、この映画はワンカットだからこその緊張感があります。
例えば、戦闘機が空中戦をしているシーンでは、主人公から見れば遠くてある意味他人事のように思えるわけです。
それが、自分の方に墜落してくるとスピードや音、大きさのギャップから、より迫力を感じます。
リアルな戦場が描かれている
戦場の臨場感を体感するには風景だったり、持ち物のリアルさが求められるわけですが、それもなかなかリアルでした。
ちょっと映画のシーンについて語りますが、ストーリーには触れないので安心してください。
映画は主人公がきれいな野原で休憩しているシーンから始まります。
で、塹壕を通って前線に向かうわけですが、最初は散髪していたり、洗濯していたりと戦場といえど生活感があります。
しかし、前線に近づくにつれて、明らかに兵士の元気が無くなっていって、怪我をしている人も増えていきます。塹壕もどんどん汚くなっていきます。
戦場といえば「戦っているイメージ」を思い描きがちですが、人間の生活面もちゃんと描かれていて、「戦い」という非日常と「生活」という日常がうまく共存しているのがリアルだと感じましたね。
他にも、死体もリアルでしたね。
何がリアルかと言われると、少し説明するのが難しいのですが、戦場で死んだ生き物はこうなるだろうという死に方をしています。
ハエがたかっていたり、ネズミについばまれていたり、川に浮いている死体は顔が白かったりとか。そういうのをすべて含めて戦場っぽさがでていたな、と。
あとは個人的に面白いと思ったところです。
公開されているメイキング映像から引っ張ってきた画像なんですが、上がドイツ軍の塹壕で下がイギリス軍の塹壕です。


こんな感じで主人公がドイツ軍の塹壕を通るシーンがあるんですが、見てもらったら分かる通り、ドイツ軍の塹壕がイギリス軍の塹壕より断然きれいなんです。
掘った後に木材できれいに補強されていたり、土嚢が真っすぐ積まれていたり、あと通路の幅も広いです。
さらに、しっかりしたベッドが並べられた地下の仮眠室には主人公たちも驚いていました。
それに比べてイギリスの塹壕はほとんど掘りっぱなしの状態で、木の板を立てかけてるだけのような状態です。とにかく汚い!
映画を見ている時は「やっぱり勤勉なドイツ人は塹壕もしっかり作ってるのかー」とか思ってたんですが、後で色々と調べてみると別の理由があるんじゃないかと。
なんで、ドイツ軍が塹壕をきちんと整備していたのかというと、それをずっと使う予定だったからなんですね。
本来塹壕は一時的に敵の攻撃を避けるためのものなので、掘りっぱなしで、汚いイギリス軍の塹壕の方が正しいんですよ。
あまり整備をしない方がコストも掛からないし、すぐに完成できるし、敵に奪われても大した損害にならないわけです。
もともと短期決戦を狙っていたドイツ軍は連合軍の反撃に大きな被害を被ります。ここで当初の計画が破綻します。
このままじゃ押し戻されると思ったドイツ軍は「絶対守りの方が有利だし。持久戦上等だぜ!」と塹壕を掘って守りを固めたわけです。
そんな感じで持久戦に持ち込むつもりだったのでドイツ軍の塹壕は整備されていたんですねー。
まあ、ドイツ人の国民性と無関係とは言い切れませんが。
ともあれ、そういった点も考えられて映画を作っているのには感心しました!
他の注目した持ち物は腕時計です。
主人公はただの上等兵ですが、腕時計をつけていて何度も時間を確認するシーンがあります。
この腕時計将校の標準装備となったのも第一次世界大戦が初めてです。
後方からの攻撃で相手を叩いてから、長く伸びる塹壕から一斉に飛び出して突撃するには、正確な時間を把握する必要がありました。
まあ、兵士全員が腕時計をつけていたかはわかりません。主人公は上等兵ですし。でも、伝令兵ならば時刻を把握する必要があったのかもしれません。
などなど、結構細かいところまでリアリティが追及されているな、と思わされました。
まとめ
てな感じで映画『1917』の感想を語ってみたわけですが、まとめると、
- 主人公と常に同じ目線で戦場を体験できる
- 細かいところまで追及されたリアリティ
- 主人公と同じ濃密な時間を過ごしている感覚
こんな感じの映画です。
戦場という「非日常」に全編ワンカットよって没入できる、というのが『1917』で出来る体験です。
ストーリー自体、明朝の攻撃中止を伝令するというシンプルなものなので、戦場にいるかのような体験に集中することができます。
まだ見たことのない方は是非劇場まで!
本記事を書くのに参考にした書籍はこちら